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コラム

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月面硬化剤

人間に寿命があるのと同じで、商品にも寿命がある。寿命が何年かは、需要先、業界、商品のジャンルによってまちまちで、はっきりした根拠があるわけではないが、われわれが関連する工業用品でも技術の進歩が早いから、せいぜい5~10年くらいだろうというのが通説である。
ところで、当社にその通説に逆らって、30年以上長生きしているサビとり剤の「サベット」という商品がある。この商品、なんと前身は1969年アポロ11号が月に着陸したときに、活躍するはずだった月面硬化剤だから面白い。
アポロ11号を月に送る前、NASAでは月面は火山灰のようなものに覆われ、非常に歩きづらいと予測して、硬化剤を使って固めることを考え、ニューヨーク州のある化学メーカーに月面硬化剤の開発を委嘱した。この会社の技術スタッフがチエを絞って作り上げたこの月面硬化剤はニューメキシコ州の砂漠での実験にも合格、アポロに積まれる手はずになったが、最後の最後に重量の関係で、積荷リストからはずされてしまった。「活躍するはずだった」と書いたのはそういうワケだからだ。 この製品の主成分は透明に近い水溶性のエポキシで、硬化するとカチカチになって水にも溶剤にも溶けない。月に行けなかったこの出戻りの処分法としてメーカーはサビ取り剤への転用を考え、水溶性のエポキシにりん酸と界面活性剤が加えられブルーに着色されたサビとり剤が誕生した。商品名はスーベットデラスト。苦しまぎれの転用ではあったが、発売してみると、意外と好評なので、メーカーはニンマリ。評判をきいた日本の三協物産株式会社が輸入して、長ったらしいからと商品名を「サベット」と短略して販売、それを当社が引き継いで今日にいたった次第である。
「サベット」は赤サビの上から塗り、数分後に拭きとると、サビがとれて、そのあとにごく薄い樹脂膜が残って、こんどはサビの発生を防ぐという、当時この分野では画期的な商品だった。サビとりのほかハンダのフラックスにも使えるので、徐々にユーザーも増えた。
しかし、塗布して30分以内に拭きとるか水で洗い流さないとカチカチに硬化する特性があり、難点でもある。 サベット君は今でも月面での活躍を夢見ているのだろうか。(井)

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